はじめに
株式投資の世界では、利益を追求するだけでなく、リスクをいかに管理するかが非常に重要です。伝説的なトレーダー集団「タートルズ」は、その厳格なリスク管理手法で知られています。彼らの戦略の根幹にあるのが「ユニット計算」です。これは、投資対象のボラティリティに応じて、適切な投資量を決定するための強力なツールです。
前回の記事では、市場の変動性を示すATR(Average True Range)について解説しました。ATRは、投資対象がどれくらいの値動きをするかを客観的に測る指標であり、このATRを活用することで、より精度の高いリスク管理が可能になります。
今回は、このATRの考え方を取り入れつつ、具体的な投資商品(株、FX、オプション)におけるユニットの計算方法について掘り下げていきましょう。これにより、あなたの資金を市場の大きな変動から守り、着実な資産形成を目指すための基盤を築くことができます。
ユニット計算の基本概念:ボラティリティと資金管理
ユニット計算の目的は、各取引におけるリスク量を均一に保つことです。ボラティリティの高い商品には少なく、低い商品には多く投資することで、リスクを平準化します。
タートルズのユニット計算では、以下の要素が重要になります。
- 口座の資金(Equity): あなたが投資に利用できる総資金です。
- ボラティリティ(Volatility): 投資対象の値動きの大きさ。ATRを用いて測ります。
- リスク許容度: 1回の取引で許容できる最大損失額。タートルズは、口座資金の一定割合(例:1%または2%)を1ユニットあたりのリスクとしていました。
1ユニットの計算式: 一般的に、1ユニットあたりのドル価値($)は、口座資金の1%を20日ATRで割ることで算出されます。
1ユニット = (口座資金 × リスク許容度) / (20日ATR × ドル価値係数)
「ドル価値係数」は、株の場合は1、FXの場合は通貨ペアの最小変動単位、オプションの場合は変動率など、各商品の特性に応じて調整が必要です。
1. 株式(個別株)のユニット計算
株式の場合、ユニット計算は比較的シンプルです。
計算方法: 1ユニット = (口座資金 × 0.01) / (20日ATR)
- 例: 口座資金1,000万円、20日ATRが500円の銘柄Aの場合。
- 1ユニット = (10,000,000円 × 0.01) / 500円 = 200株
- この場合、1回の取引で最大200株まで購入するのが適切だと考えられます。
ポイント: ストップロスを設定する際は、この1ユニットあたりのリスクが口座資金の許容範囲内に収まるように調整します。例えば、1ユニット分のポジションを取った際に、ATRの2倍の幅でストップロスを設定するといった方法が考えられます。
2. FX(外国為替証拠金取引)のユニット計算
FXはレバレッジが効くため、ユニット計算によるリスク管理が特に重要です。FXのATRは、通貨ペアのピップ(最小変動単位)で計算されることが多く、そのドル価値に換算する必要があります。
計算方法: 1ユニット = (口座資金 × 0.01) / (20日ATR × 通貨ペアのピップ価値)
- ピップ価値の例: 1ロット(10万通貨)あたりの1ピップの価値は、米ドル/円の場合、1円あたり1000円(10万通貨 × 0.01円)となります。
- 例: 口座資金100万円、米ドル/円の20日ATRが0.5円(50ピップ)、1ピップの価値が1000円(1ロットあたり)の場合。
- 20日ATRのピップ価値換算 = 0.5円 × (100,000通貨 / 1000円) = 50ピップ × 1000円/ピップ = 50,000円
- 1ユニット = (1,000,000円 × 0.01) / 50,000円 = 0.2ロット
- この場合、0.2ロット(2万通貨)まで取引するのが適切だと考えられます。
ポイント: レバレッジが高い分、少しの変動でも大きな損益につながるため、厳格なユニット計算が求められます。
3. オプション取引のユニット計算
オプション取引は、株やFXよりもさらに複雑な値動きをするため、ユニット計算も高度な知識を要します。オプションの価格は、原資産の価格変動に加えて、満期までの期間、ボラティリティ、金利など、多くの要素に影響されます(デルタ、ガンマ、ベガ、セータといった「ギリシャ指標」)。
基本的な考え方: オプションのユニット計算では、通常、原資産の価格変動に対するオプション価格の感応度を示す**デルタ(Delta)**が用いられます。デルタは、原資産が1ドル(1円)動いたときに、オプション価格がどれだけ動くかを示します。
1ユニット = (口座資金 × 0.01) / (20日ATR × デルタ × オプションの乗数)
- オプションの乗数: 1オプション契約がいくつの原資産に相当するか(例:米国株オプションは通常100株)。
- 例: 口座資金1,000万円、原資産の20日ATRが100円、コールオプションのデルタが0.5、オプション乗数100の場合。
- 1ユニット = (10,000,000円 × 0.01) / (100円 × 0.5 × 100) = 100,000円 / 5,000円 = 20単位
- この場合、20単位のオプション契約まで購入するのが適切だと考えられます。
ポイント: オプションのデルタは常に変動するため、定期的にユニットの再計算やポジションの調整(デルタヘッジ)が必要になります。また、オプションのボラティリティ(インプライドボラティリティ)自体も価格に大きく影響するため、これを考慮に入れるとさらに複雑になります。
まとめ
タートルズのユニット計算は、リスクを定量的に把握し、投資量を適切に調整するための強力なフレームワークです。株、ETF、FX、オプションといった異なる金融商品においても、それぞれの特性に合わせてATRやデルタといった指標を活用することで、効率的な資金管理が可能になります。
市場は常に変動し、予測不可能な要素も多く存在しますが、徹底したリスク管理を行うことで、市場の荒波を乗りこなし、着実に利益を積み重ねていくことができるでしょう。あなたの投資戦略に、ぜひこのユニット計算の考え方を取り入れてみてください。
コメント